• 2016年12月31日

身体的、精神的、経済的、性的・・・様々なDVトラブルについて弁護士に聞いてみた!

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2016年秋ドラマが終盤を迎えています。「逃げるは恥だが役に立つ」では、新垣結衣さんと星野源さんによる契約夫婦が、そして「夏目漱石の妻」では、尾野真千子さんと長谷川博己さんが夫婦に。今期もまたドラマの中で印象的な夫婦がたくさん登場しました。


筆者の中で、個人的に特に心に残っているドラマの夫婦といえば、やはり「ずっとあなたが好きだった」の賀来千香子と佐野史郎の演じた冬彦さん夫婦です。ストーキング・DV、マザコンとクズ夫要素のオンパレード。同作を知らない世代の方には一度は観て頂きたい名作です。

DV夫といえば、最近のドラマでもいくつか記憶に残っています。「ナオミとカナコ」「偽装の夫婦」ではともに内田有紀がDV夫に苦しめられる妻を演じ、「Nのために」では小西真奈美がDV被害者の妻を好演されました。今回は、数ある様々な夫婦の形から、この「DV(ドメスティック・バイオレンス)」に関するトラブルについて、掘り下げてみようと思います。今回「DV(ドメスティック・バイオレンス)」トラブルについて教えて頂いたのは、アディーレ法律事務所の鳴海裕子先生です。

--記者
最近よく「DV(ドメスティック・バイオレンス)」という言葉を聞くようになった一方で、昔に較べて夫婦間の男性パワーバランスは落ちている(男性が弱くなっている)、そんな気もします。そんな状況の中で、DVに関する相談は増えているのでしょうか?DVに関する相談状況について教えてください。

--鳴海先生
近年、DVに関する法律相談は増加している印象です。増加の理由としては、やはりDVが不法行為(民法709条)に当たりうることや、離婚原因になりうること等、法律問題であるという認識が普及したからではないかと思います。一昔前であれば、妻は夫の暴力に耐えるのが当たり前だという風潮もあり、訴えることができるかもしれないとか、離婚できるかもしれないという考え方も少数だったように思います。今は夫婦問題やDVの相談所等も徐々にですが増えてきているように思います。このような普及の背景には、DVに関する辛いニュース等、メディアの影響もあるのではないでしょうか。

--記者
そもそも、DVに関する相談にこられる方というのは、どのような方が多いのでしょうか?また、どのような相談がもっとも多いのでしょうか?具体的な相談内容などを交えて教えてください。

--鳴海先生
DVの相談に来られる方は本当にさまざまですが、やはり女性が多いというのは確かです。

DVには、殴る蹴る等の身体的暴力のほか、怒鳴る、無視する、異常な束縛などの精神的暴力、生活費を渡さない等の経済的暴力、嫌がる相手に無理やり性交渉を強要する、避妊しない、中絶を強制する等の性的暴力等、様々な類型があります。女性の社会参加が増えた現在でも、やはり経済的にも夫より妻が劣勢であることはまだまだ多く、体格や力も当然女性劣位であるため、女性からの相談が多くなってしまうと思います。しかし、精神的DVについては男性からの相談も多いと感じています。

--記者
DVというと、やはり物理的な暴力などをイメージしてしまいますが、実際は法的な見解でいうと、具体的にどういった行為がDV行為に当てはまるのでしょうか?また、DV行為は犯罪として立証され、加害者は刑事罰を受けているのでしょうか?

--鳴海先生
DVの種類としては、上記のとおり、物理的な暴力のほか、精神的DVや経済的DV、性的DVなどがあります。

物理的な暴力は、暴行罪(刑法208条)に該当し、相手がけがをすれば傷害罪(刑法204条)となります。たとえば、夫に暴力を振るわれ、けがをした妻が警察に被害届を出せば、警察としても事件として扱いますので傷害事件として逮捕されたり起訴される可能性だって当然あります。もっとも、警察はDVの被害申告があっても夫婦間のもめ事・喧嘩という目で見てしまい、妻に被害届を取り下げるように話をしたりすることもあると聞きます。また、DVは他人の目の届かない家庭内で行われることがほとんどですので、けがをしなかった場合などは、証拠がなく、立証が難しいということもあります。

実際に夫に暴力を振るわれても、「私が怒らせることをしたから悪いんだ」と考えてしまって警察に届けない方や、夫婦間のもめ事だから警察は取り合ってくれないと考えて被害届を出さない方もたくさんいます。

--記者
仮に、自分がDV被害者になってしまった場合、まずは何をすべきでしょうか?また最終目的を「DVを理由とした離婚」とした場合、何をどのように準備しておくべきなのでしょうか?

--鳴海先生
何をすべきかについては、DVの種類によって異なりますが、物理的暴力の場合は、身体の安全を最優先してください。まずは警察への相談や、ひどい場合は実家・信頼できる友人宅への避難やDVシェルターの利用等が考えられます。もっとも、たとえば妻の浮気等を疑って暴力を振るうケース等は、信頼できる友人だからといって安易に異性の友人をたよることはやめましょう。感情的になっている加害者は、異性の元を頼ったことを突き止め、異性をも巻き込んで紛争を悪化させる可能性も考えられるからです。

精神的DVや性的DVの場合にも、一度距離を置くなどのために、実家等へ避難するのが無難です。その上でDVを理由として離婚調停などの申し立てを行いましょう。

経済的DVについては、扶養義務がある以上、その義務を履行しないのであれば、法的措置として婚姻費用の請求をすることが考えられます。弁護士等に依頼して訴訟・調停外で請求することもでき、これに応じない場合には調停の申し立て等を行います。

DVを理由とする離婚については、被害者・加害者双方でDVの認識が異なるため、当事者同士で「DVがあったことを認め離婚に応じます」というような協議離婚は成立しにくい傾向にあり、最終的には第三者機関である裁判所の判断に委ねることになりがちです。そのため、第三者機関である裁判所にもDVの状態がきちんと伝わるように、客観的資料を準備しておくことが大切です。

先にも述べたとおり、DVは家庭内で行われることがほとんどであるため、目撃者証言などは滅多にありません。自分で証拠を確保するしかありません。物理的暴力等の場合には、すぐに警察を呼んで記録してもらう、けがした場合には病院で診断書をもらう、けがの状態を写真等で記録する等が考えられます。

経済DVについては通帳管理や相手の収入、家計の支出等をきちんと整理しておきましょう。いつから生活費を渡さなくなったのか、一円も渡していないのか、生活するに足りないわずかな額しか渡さないのか等、裁判所にわかるように準備をすることが大切です。

性的DVについては、離婚事由と認められることもなかなか難しく、また、証拠の確保も難しい類型です。なぜなら、第三者の目に触れないシーンでの出来事であるため、当事者の証言によるほかないことや、被害者側の拒否の意思表示が足りないために、加害者自身、拒否されていると認識できずになし崩し的に行為がなされる場合が多いからです。被害者は、嫌なことは嫌と言えるように留意しなければなりませんね。

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というワケで、今回は“DV(ドメスティック・バイオレンス)トラブル”について、弁護士の鳴海先生に色々とお話を伺いました。いわゆるDVと言っても、様々なパターンがあり、それぞれの状況によって取るべき対応は変わってくるようです。今回のお話で特に印象的だったのは、被害者側が「私が怒らせることをしたから悪いんだ」と感じてしまい、正しい判断が出来なくなってしまう事。しかし、どんな状況であったとしても暴力は絶対に許されるものではありません。ドラマの中の世界と“他人事”として捉えるのではなく、自分が当事者になった時の対応などは、心に余裕があるうちにきちんと考えておくべきなのかもしれません。

・取材協力
鳴海裕子(なるみゆうこ)弁護士(東京弁護士会所属)
弁護士法人アディーレ法律事務所