“アイドル戦国時代”といわれ久しく、現在、無数の女性アイドルグループが存在します。仕事柄、さまざまなアイドルグループやアイドル歌手の所属事務所、レコード会社から毎日のように広報資料が送られてきますが、それぞれ自社のグループ名の紹介の前につけている“肩書き”はさまざま。
ストレートに“アイドルグループ・○○”と紹介しているグループもあれば、肩書きに“アイドル”の文字を入れないグループもあり、興味深いところです。そんな“アイドル”の呼び方について、さまざまな角度から研究したいと思います。
各社の広報資料に掲載されているアイドルグループの“肩書き”
各社の広報資料に記載されているアイドルグループの“肩書き”を見ると…。【モーニング娘。'17】をはじめ【ハロー!プロジェクト】は「アイドルグループ・モーニング娘。'17」という形で、アイドルを名乗っています。
同様に【SUPER☆GiRLS】や【Cheeky Parade】【GEM】といったエイベックス所属のグループも「アイドルグループ」を名乗っていますが、同じエイベックス所属でも【東京女子流】は「ダンス&ボーカルグループ」、【callme】は「ガールズユニット」と紹介されています。正統派のアイドルパフォーマンスを見せる、社内の【iDOL Street】レーベル所属の前者に対して、後者は本格派のダンス&ボーカルなどパフォーマンスを見せるグループという棲み分けになっているんだろうと思います。
同じように本格的なダンスパフォーマンスで定評のある【東京パフォーマンスドール】は「ガールズグループ」。【9nine】は「パフォーマンスガールズユニット」、同じ事務所の【ベイビーレイズJAPAN】は「ガールズユニット」となっています。
ちょっと変わったところでは、独特な世界観でアイドルファンだけでなく音楽ファンからも強い支持を得る4人組【Maison book girl】は「ニューエイジ・ポップ・ユニット」、ピュアな雰囲気とキラキラしたダンスで人気の、北海道出身の二人組【WHY@DOLL】は「オーガニックガールズユニット」と名乗っています。
また中学を卒業と同時に卒業する中学生中心のグループ【さくら学院】の「成長期限定!!ユニット」は有名な呼び名です。ちなみに【AKB48グループ】から送られてくる資料には、あえて“アイドルグループ”“ガールズグループ”というような“肩書き”表記はありません。AKB48グループクラスの知名度になると、今さら肩書きなどなくても通じるもの。“AKB48”がジャンルといっていいくらい、多くの系列グループを有しています。
90年代の“アイドル冬の時代”は“アイドル”は差別用語的なニュアンスも!?
“アイドル冬の時代”といわれた1990年代前半からモーニング娘。がブレイクする1998年ごろまで、“アイドル”という呼び名はいわば“差別用語”的な扱いでした。そこには“顔が可愛いだけが取り柄で、歌もダンスも下手”という、意地悪なニュアンスも含まれており…。
90年代後半人気絶頂だったSPEEDも“アイドルグループ”とは名乗りませんでしたし、SPEEDのようにパフォーマンスのスキルが高いグループはもちろん、それ以外のルックス勝負の歌手やグループも、あくまで“アーティスト”という呼び方が主流でした。
この時代は内田有紀さんや広末涼子さん、雛形あきこさんなど女優として人気に火がついた人が歌手としても人気者になり、事実上のアイドルでしたが、彼女たちのことを“アイドル歌手”と呼ぶことはありませんでした。彼女らが音楽番組に出演する時は“アーティスト”でした。
その後、2000年ごろからモーニング娘。が国民的グループへと成長、続いてAKB48のブレイクで“アイドル戦国時代”という言葉が定着し、いつしか“アイドル”という言葉の市民権が回復しました。
そして近年、アイドルグループが増加し、ルックスの可愛さが売りになっている女性グループが飽和状態になっている中、特に本格的なパフォーマンスが売りだったり、個性が際立っているグループを中心に、他と差別化する意味で、あえて“アイドル”を名乗らないケースも増えているようです。
もともと人から呼ばれてこそ“アイドル” いつの間にか自分で「私はアイドル」という時代に
ところで、そもそも“アイドル”というと80年代頃はアイドル自身や所属会社が名乗るものではなく、人気が出た“女性歌手”が知名度が広がった時点で“アイドル”と世間から評されたものでした。元の肩書きはあくまで“女性歌手”“女性グループ”です。特に前述のように、90年代の“アイドル冬の時代”では、むしろ“アイドル”と呼ばれることは避けたいという傾向でした。
ですがおそらく、自ら“アイドル”“アイドルグループ”を積極的に名乗るようになったのは、AKB48登場以降の“アイドル戦国時代”と呼ばれるようになってからではないでしょうか。
1985年に発売された小泉今日子さんのヒット曲『なんてったってアイドル』は、本来自ら名乗るものではない“アイドル”を、開き直って自分で「アイドルはやめられない」と言っちゃうところに面白さがあったのですが、今聞けばそんなに違和感のないものになりました。
近頃では“地下アイドル”という言葉も浸透し、世の中的にまったく認知されていない10代の歌手の女の子が、自分で「私はアイドル活動をしていて…」などと語る時代。80年代、90年代に使われていた“アイドル”とは意味が少し変化してきています。
最近は大学のサークルなどで自主的にアイドルグループを結成したり、YouTubeなどを使ってアイドルソングを配信するなど個人で活動する人など、ますます「アイドル」の言葉の意味が広がっていきそうです。
文/田中裕幸